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イタリア大好き!な働く主婦が綴る日々の雑感、独り言♪                HN 杏

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辻邦生・北壮夫 パリ東京往復書簡

先日の新聞に辻邦生さんと北杜夫さんの無名時代の往復書簡が見つかった、という記事が出ていました。
そして、その往復書簡が、「新潮」の8月号に掲載される、とも。

発売日の7日、仕事の帰りに本屋さんに!

辻邦生・北壮夫 パリ東京往復書簡_e0116960_121298.jpg


もう何度もここで書いていますが、辻邦生さんは最愛の作家です。
そして辻さんを知ったのは、北杜夫さんの「どくとるマンボウ航海記」を読んだときでした。
「どくとるマンボウ青春記」で、旧制松本高校時代を北さんが描いていて、そこには先輩として、そして同級生として共に青春時代を過ごした辻邦生が出てきます。

そんな二人は、それぞれに進学し、医学と仏文とまるで異なる学問を学び、互いを尊敬しあう人生の親友となっていきました。

この往復書簡は、辻邦生がパリに留学し、北杜夫が漁船の船医として乗り込み、その経験を航海記として世に出す直前から北杜夫が「夜と霧の隅で」で、芥川賞を受賞したのち、辻がパリから日本へ帰国するまでにお互いに交わしたものです。
そこには、文学を志す若い二人の情熱と、現実が忌憚なく綴られていて、非常に興味深く読みました。

パリから辻が北杜夫送った手紙の内容をどこかで読んだ・・・と思い、それは辻の「パリの手記」だっただろうか?と思っていたら、次の北から辻への手紙の中で、辻が書いたことを航海記で使わせてもらったよ、と書いていて、ああ、あの床屋の話は、辻から北への手紙に書かれていたことだったのか!と妙に納得もしました。

先に世に出た北杜夫が、パリで一人創作活動を開始した辻をなにくれと世話をし、辻が北に送った原稿を出版社へ持ち込んだり、それに対して辻が心から感謝していると手紙にしたためていて、損得のないひたすら互いを思いやる友情で結ばれていることが、よくわかります。

手紙の中では互いの作品についても意見を交換しあっており、北は文学の先輩として辻の作品について、細かく指導めいたことをしているのが、なんともほほえましく、それを素直に受け入れる辻の態度もさすがで、ひたすら北を文学の先輩として尊敬し、崇拝している姿に感銘を受けました。

辻邦生が作品を発表し始めて、しばらく経ったころ、辻の作品である「天草の雅歌」を直木賞に推したいと、北杜夫の知り合いの作家だか評論家だかが言ったとき、北杜夫はその相手に「バカなことを言わないでもらいたい。辻はあくまで純文学の作家だ。芥川賞の対象となる作家だ!大衆小説の直木賞だなどとんでもない!」と大変な剣幕で怒った、という話があります。
北杜夫に話をした人物は、北杜夫の剣幕に驚き、「いや、違う、あれほど高雅が物語りが直木賞となれば、直木賞に対する世間の見方も変わるか、と思ったんだ。もちろん辻邦生が純文学の作家だとうことは承知している。だけど敢えて直木賞とすることで、直木賞がもっと見直されれば、と思ったんだよ」と答えたそうです。

こんな風に互いを尊敬しあい、大切に思い、人生の変わらぬ友として、旧制高校で出会ってから辻が突然に天国へ旅立ってしまうまで続いた二人の友情が、私にはまぶしく羨ましく、感じられてなりません。

それにつけても、辻邦生のあまりに早かった死が惜しまれます。

この往復書簡は7月18日から軽井沢高原文庫で展示公開されます。
夏の軽井沢は大混雑でしょうが、この往復書簡を見に、軽井沢へ行きたい、と思いました。
by ank-nefertiti | 2009-07-11 02:18 | 読書

by 杏